Lacheln_埼玉県三郷市

Before:デッキ席、外部席を新たに設けるにあたり、統一感を見い出したい。
After:一本の道を通すことによって、動線計画の解消と店舗の印象形成を実現。

事業の概要
2014年に空き家を飲食店として改修。今回の計画(2020年)では、テラス席を拡大し、地元の風景と共にキャンプ体験ができるDIYリノベーションを行った。未曽有の公衆衛生危機で大きな打撃を受けている飲食業界に身を置く者として、少しでも明るい時間を提供したいという思いから、建物の改修および営業内容のリニューアルを実践した。

事業の目的、背景、経緯
介護保健業を営む傍ら、2014年に長年の夢であった飲食店開業を果たした。空き家を改修し、生まれ育った埼玉県三郷市で、母、妹、妻の家族4人で営業している。豊富なクラフトビールの品揃えを強みに、気軽に立ち寄ることのできる店作りを目指してきたが、コロナ禍での営業自粛に際し、飲食店のあり方を再考した。生活体系は急速にリモートに移行し、科学技術への依存度が高まっている。これに対し本事業は、直接的な人間関係の構築と充実の欠如による人々の精神的ストレスの軽減に貢献することを目的に設定した。
地元で活動する幼馴染の建築士と税理士の助言を受け、営業体系を一新した。建物の改修は、地域住民や友人、家族と共にDIYで施工し、味に定評がありながら特徴のなかった料理メニューも見直した。駅から離れた市街地に位置する当該店舗を、2020年3月に開業した駅前店と連携させることで、新しい客層の開拓にも挑戦した。

独自性
安心安全に飲食店を利用してもらうだけでなく、心から楽しむことのできる時間を提供するため、キャンプ体験をレストランに取り入れた。調理から楽しむことのできる本格体験型から、指導付きキャンプ体験、シンプルなレストラン利用まで、段階分けをしたメニューを提供している。
空き家を最低限改修したのみで営業していた当該店舗は、余剰、未使用スペースが多く、店舗の印象も定まっていなかった。三角屋根で線対称な形態を特徴とする既存の建物をアップグレードする手法として、外部席-テラス席-屋内席を貫く、一直線の”道”をど真ん中に通すことにした。この道は、客席の区分を明確にし、効率的な従業員動線として機能するだけでなく、飲食店の背骨として敷地に統一感を与える。全て異なるデザインの椅子を入れ、持ち寄りのキャンプ場の雰囲気を作るとともに、「あの椅子座ってみたい☆」というちょっとした楽しみを付加した。

汎用性
駅前店を営業軸とし、当該店舗を活性化する手法を用いている。ネットやチラシだけでなく、三郷駅改札脇に開店した駅前店を看板として活用することで、より多くの人々への周知を図っている。また、2018年から開始した弁当宅配サービスは、駅前での宣伝とは異なる客層の獲得につながっている。こうした地道なネットワーク作りは、地域を問わず応用できる。

継続性
駅前店との連携(タクシーでの来客にドリンク一杯無料/看板設置など)および弁当宅配サービスにより、客足を確保しながら、駅前店と本店を同時に活性化する。来客との積極的な交流、情報交換、毎日のSNS配信や、地域に配布されるチラシへの掲載、介護保健事業を介した事業宣伝を通して安定した地域ネットワークをすでに構築している。若年層や子育て世代だけでない、幅広い客層の獲得に向けてさらに宣伝手法を多様化し、持続可能な営業体系を確立していく。

影響力
三郷市は、80年代後半から90年代前半にかけて公営団地が整備され、多くの住民が移り住んだ地域である。近年になって大型商業施設や外資系大型ショップができたことで注目が集まり、賑わっているように見えるが、公営団地区域は、市街地にもかかわらず十分に活性化しているとは言えない。また、住民の多くは2020年代に一気に高齢者世代に突入する。
この課題に対し応募者は、ケアマネージャーの資格と介護福祉に長年携わってきた経験と知識を活かし、高齢者も安心して利用でき、また異なる世代との交流も生まれる飲食店経営を展開している。3年後には当該敷地の近隣にサービス付き高齢者住宅設立を計画しており、若者向けと思われがちなキャンプ体験を、高齢者も一緒になって楽しむことのできる機会を提供していく。

新しい生活様式への対応
本来、自然のなかで行われるキャンプを、市街地で気軽に体験することができる、というコンセプトで店舗を改修したため、安全面での配慮が行き届きやすい造りとなっており、また、屋内外の通路や客席間のスペースは余裕をもって確保しており、簡易的な、または厳重な感染予防に対応しやすい。
本事業は、予算を抑えるために、建築士の指導のもと全てDIYで施工したが、結果的には、知人、友人、家族と「みんなで汗を流して作り上げた」という何にも変え難い思い出となった。訪れるかもしれない未知の脅威、もしくは科学技術の発展に伴う生活様式の革新においても、人と人との直接的な繋がりは、豊かな文化的生活に欠かせないと再確認した。