「既存建物の状況」
築53年、1階の前面道路側は全面ガラスの典型的な看板建築であり、1階の道路側に、構造的に有効な壁のない危険な建物であった。
この手の物件を建築基準法に則って、耐震改修をするとなると、ジャッキで建物を持ち上げ、基礎を打ち直し、壁量を満たし、接合部の金物を見直し、等々、費用が膨れ上がってしまう。そこまでするのであれば建替えてしまった方が安いが、そんな資金的余裕のあるオーナーは少ないだろう。また、この物件は、再建築不可ではないが、現行法上、建替えるとなると、建蔽率が小さくなってしまう状態であった。
「全体計画の方針」
建替え/引越してからの内装改修/今の賃貸の内装改修の可能性を、施主と話し合った末、都内で駅前の立地と言うこともあり、今の賃貸の改装を、耐震補強と共に簡易的に行うことにした。また、賃貸案件であるため、構造補強と老朽化した部分に対する修繕の費用面について、貸主と相談しながら進めることにした。
「構造補強方針」
この建物は、建設当初は2階に大きな機械が置かれていたため、2階の床梁には一部鉄骨が使用されていたり、105角の木梁があったり、過去に増改築が成されており、複雑な架構をしていた。
古い木造建築物は、施主の要望や当時の大工の手腕によって、様々な架構で成り立っていることは多々ある。
その古くなった建築物に対して施される構造補強には、その建物に合った方法が各々あると思った。
建築基準法の基準を満たさないまでも、確実に構造的に有効な手当てとして、予算/既存の状況/使い勝手とのバランスを考慮し、柔軟に補強するという選択肢をとった。
さらに本案件では、最適な補強の位置がが入口側で目立ってくるため、補強が、意匠的であり、機能的であることを目指した。
「配置計画」
漢方薬局は、敷居の高いイメージがあるが、もっと気軽に漢方に親しめるような場所にしたいという思いがあった。そこで、ミュージアムショップのような漢方薬局というコンセプトを掲げ、親しみ安く気軽に入ってこられるように、陳列棚を入り口側に多く設けることで、通りを歩く人たちにショーウィンドウのように商品や説明が見えるようにした。通り側に、調剤室や受付を配置する案もあったが、従業員が入り口付近にいると店内に入りにくいという、お客さんの心理や、向かいのビルの反射光が眩しいということもあり、受付の位置は奥のままとした。
「機能・補強・意匠(用強美)としての耐震改修」
・機能として
見え隠れによる向こう側への意識の誘発だけでなく、陳列棚の支柱としての機能も持たせ、一方で、簡易な問診や薬の説明を行うこともあるため、外からの簡易な目隠しとしても機能する。
・補強として
補強は、前面道路側の耐力の小さい箇所に設ける必要があった。見え隠れによる向こう側への意識の誘発を目的に、面的な壁としての補強ではなく、多孔的な筋交いによる補強を選択した。
また、たすき掛けの交点をずらし、さらに筋交いを一本追加し、接点をずらすことで、各部材との交点を増やし、座屈補剛と接合部の破損リスクを分散させた。
・意匠として
いかにも耐力壁として見せるのではなく、木組みのような意匠性を形成し、その他の箇所も角材を使用し、デザインコードを統一した。